2017.01.10社員ブログ

第一回 マット紙のような人

 

彼との待ち合わせは神保町の、とあるレトロな喫茶店。

今の時代には珍しい、蓄音機から流れる音楽を楽しめる場所らしい。

 

今日の天気はあいにくの曇り。

なんだか、初デートに緊張している私の気持ちを表しているみたい。

そんなことを思いながら、私は遅れないように5分前に喫茶店に到着した。

 

が、彼は既にいた。

 

「は、早いですね。もしかして・・・待たせちゃいましたか?」

 

「僕もついさっき、ここに着いたんだ。」

 

彼はそう言って微笑んだが、手元のグラスが時間の経過を物語っていた。

彼と何気ない会話をしていると、突然、彼は子供のように目を輝かせた。

 

私は思わず、

「どうかしましたか?」と聞いた。

 

彼は、柔らかな髪を色白い手で撫でつけながらこう言った。

 

「今、かかっている音楽、僕が大好きなマット・マーフィなんだ!」

 

「そ、そうなんですか・・・」

 

私はもちろん知らない。

 

「ブルースブラザーズっていう映画で、このミュージシャンを知ったんだ。

彼の安定感のある演奏が好きでね。」

 

見た目の割に、けっこう渋いんだな。

すこしぬるくなったカフェオレを飲みながら、私はそう思った。

しばらく音楽を聴きながら、話は映画の話題へと移った。

 

「好きな映画とかあります?」

 

そうすると、彼はこう答えた。

 

「僕、マット・デーモンが出演している映画は全部DVD持ってるよ。」

 

「マ、マット・デーモン?」

 

「うん、ハリウッドの俳優たちの中でも、普通の人と言われていて、目立ったスキャンダルもなく、

安定感があって、幅広い役柄を演じられる素晴らしい俳優なんだ!」

 

彼は少し鼻を膨らませながら、自慢げにそう語った。

ふと、私は彼との会話の中で、ある法則に気づいてしまった。

この人、「マット」がつくものだったら何でも好きなんじゃないか?

 

「じゃ、じゃあ、好きな野球選手は?」

 

「もちろん、マット・マートンさ。」

 

やっぱり。

小さな窓から明るい光が差し込んできた。

わたし、初めて付き合う人は、マット紙のような人がいい。

 

 

これはとある印刷会社で働く、紙をこよなく愛する人が、

紙の特徴を伝えたいという想いから始まった、紙を擬人化したショートストーリーである。

 

「紙女」

第一回 マット紙のような人

第二回 光沢紙のような人

第三回 耐水紙のような人?

第四回 メッシュのような人

第五回 合成紙糊あり・なしのような人

第六回 ターポリンのような人?

第七回 パワー合成紙のような人