2017.07.20社員ブログ

第七回 パワー合成紙のような人

 

今日の風は、強い。

 

正確に言うと今日の対戦相手、豪風吹世(ごうふう ふくよ)は、強い。

 

「フハハハハハハ~」

 

不気味な笑い声と共に、
常識では考えられないほどの速さで前転し、あたしに向かって何度もしつこく突進してくる。

 

まるで西部劇でよく見る回転草(豪風はタンブルウィードと言って譲らない)のようだ。

 

長年のライバルの攻撃に息を上げているあたしは、

 

女子プロレスラーの剛力パワ子(ごうりき ぱわこ)。

 

自分で言うのもなんだが、女子プロ団体バナークロスでトップを張らせてもらっている、
いわばスター選手ってやつだ。

 

だけど、今日のあたしはスターなんてもんじゃない。
輝き方を忘れてしまったダメ選手だ。

 

「おい!パワ子!!いつもの力強さはどうしたんだよー!!!」
「いつもみたいにパリっとしろー!」
「豪風に負けるなー!!」

 

くそ~。こんなみっともない姿、ファンに見せたくないのに・・・
早く、早く反撃のキッカケを掴まないと。

 

焦る気持ちと体力がピークに達しそうになった、その時。

 

「フゥ、ハァ、うっぷ、ハァ」

 

豪風のやつ、いつもより多く前転しすぎて目を回してやがる。

 

このチャンス、逃すわけにはいかない!
あたしはすかさず、豪風の背中に軽やかに回りこみ、叫んだ。

 

「スレッジハンマー!!!」

 

両手を組み頭上に高く持ち上げ、豪風の背中めがけて振り下ろす。

 

ドムッ

 

「うぐう」

 

技が決まった!
ほっとしたのもつかの間、先ほどまで苦しんでいた豪風が、目の前に、いない。

 

「油断大敵だコノヤロー」

 

頭上から聞こえた叫び声とともに、
いつの間にコーナートップに立っていた豪風が、強烈なタイフーンキックをあたしに放った。

 

「ぐはあっ」

 

く、苦しい・・・
もう、あたし、ダメかもしれない・・・

 

「パワ子ちゃーん!頑張ってー!!!」

 

小さい女の子の声がする。
あたしのこと、応援しにきてくれてんだ・・・

 

ここで、膝をつくわけにはいかないな・・・

 

豪風は先ほどのタイフーンキックで力を使い果たしたのか、
リングの真ん中で四肢を投げ出し倒れ込み、ゼエゼエと大きく息をしている。

 

二度目のチャンス!
あたしは残っている力を振り絞って、コーナートップによじ登り、獅子のように吠えた。

 

「ウオオオオオオオオ」

 

それから両手を広げ、目を閉じる。
オーディエンスの視線やどよめく声、期待を感じる熱い歓声や大きな手拍子、
ギラギラとしたもの全てがあたしに集まっているのを肌でビリビリと感じる。

 

すぅっと息を吸い、天井を見上げる。
そして、リングの上で倒れている豪風に狙いを定め、飛び降りる。

 

「でたっ鳩目下降だー!!!」

 

感情の読めない鳩のような目で、両手を広げ急降下し、重力をかけてタックルするこの技を
人はいつしか「鳩目下降」と呼ぶようになった。
(あたしはこの技をハトメと呼んでいる)

 

見事にハトメも決まり、休むことなく最後の仕上げに取り掛かる。

 

うつ伏せになった豪風の両足を自分の足で巻き込むように挟み、両手首もしっかり握り込む。

 

「や、やめろぉ」

 

これから起こる恐怖に声を震わせ抵抗する豪風を羽交い絞めにし、そのまま後ろへ倒れ込む。
そして、豪風の体を天井に届くくらい、めいっぱい吊り上げ、あたしは叫んだ。

 

「バナー・エックス!!!!!!」

 

ま、参った。
か細い声でこぼした豪風の言葉と共に、カンカンカンとゴングが響き渡る。

 

今日の風は、強かった。
だけどあたしは、いつだって、風に負けない。

 

これはとある印刷会社で働く、紙をこよなく愛する人が、

紙の特徴を伝えたいという想いから始まった、紙を擬人化したショートストーリーである。

 

「紙女」

第一回 マット紙のような人

第二回 光沢紙のような人

第三回 耐水紙のような人?

第四回 メッシュのような人

第五回 合成紙糊あり・なしのような人

第六回 ターポリンのような人?

第七回 パワー合成紙のような人