2017.01.31社員ブログ

第三回 耐水紙のような人?

 

テレビをつけると、そこにはびしょ濡れのお天気お姉さんがうつっていた。

突然のゲリラ豪雨だったらしい。

 

ギリギリセーフ。

 

まるで、敵のアジトのシャッターがしまる寸前に滑りこめたような感じだ。

スパイ映画の見過ぎだろうか…

 

あー、濡れずに済んで良かった。

テレビにうつる出来事は自分とは関係ない事。と、あっさり切り離したところに突然、

ピン、ポーンとドアのチャイムが鳴った。

 

ドアの覗き穴から、キュルンとしたつぶらな瞳が、

わたしのことをずっと前からお互いを知っているかのように、じっと見つめている。

 

「まいったまいった〜」

 ドアをあけ迎え入れるなり、彼は、いや、

水分を充分に含んだ人並みの大きさのゴマアザラシは、パタパタと身体をふるわせ、

水しぶきを玄関に撒き散らした。

 

「ちょっと、玄関がビショビショになるからやめてよ」

 そんな私の注意なんておかまいなしに、いつの間にか水分が飛んで、ふわふわになったゴマアザラシは、

明らかに計算して出している甘えた声で問いかけた。

 

「お風呂はいっていいかなあ?」

なんて図々しい奴。

イモムシのようにうねうねと風呂場へ移動しようとするゴマアザラシに続いて、

私もうねうねと移動しようとした。が、

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「ドスンッ!?」

絨毯にアゴを打ち付けた。

さっきまで部屋にいたはずのゴマアザラシは、いなかった。ついでに雨も降っていない。

私は夢を見ていたのだ。

 

壁に掛かっている時計の針をみると、ぼんやり夜中の2時をさしていた。

 

「まだ5時間ねれる・・・」

 打ち付けたアゴをさすりながら、サナギのような形をした布団の中にぬくぬくともぐりこんだ。

目をつむり、カチカチという無機質な時計の針の音を浴びながら、

私はベッドの背もたれとまくらのスキマに脳天から吸い込まれるように眠りに落ちていった。

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突然、香ばしい醤油の香りが鼻の奥に広がる。

なぜか、そこで、私はお煎餅を焼いていた。

 

網の上でプクーっと膨れ上がったお煎餅たちを、醤油がなみなみ入った大きな壺の中に次々と入れていく。

白いお煎餅はみるみるうちに醤油を吸い込み、己の体を茶色くさせる。

どこからか、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「ボクも入りた〜い」

 相変わらず、図々しい奴。

いつの間に網の上にいた白いゴマアザラシも、

カリカリのお煎餅たちの列に混じって黒い海へのダイブを今か今かと待ち望んでいた。

 

ジュ…と音をたてて染み込ませていくお煎餅につづき、ゴマアザラシも華麗にダイブした。

 

ちゃっぷん

 

とびこみ競技ならば高得点を叩き出せるであろう美しいダイブに私は思わず、ほぉ・・・と感心した。

あの真っ白な体は、さぞ醤油が染み込むだろうな。

 

どのぐらい潜っていたのか分からないけれど、

しばらくして醤油の海からあがってきたゴマアザラシの姿に、唖然とした。

 

全く染み込んでいない。

 

金メダルがあればかけてあげたいほど、彼はそのふくよかな白い体を揺らし、

誇らしげな顔をこちらに向けていた。

 

「君もきなよ〜」

醤油の壺のフチまできていたゴマアザラシに腕を掴まれ、

待って」のまの字も言うスキもなく、私の体は黒い醤油の海に引き込まれた。

 

し、しみちゃう・・・!

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ビクっと体をゆらし、目を開けるといつもの部屋の天井がうつる。また夢だった。

時計の針がそんなに移動していないことに驚く。

 

「あんなに壮大な夢だったのに・・・」

 あの夢を壮大と言っていいのか?

それはさておき、さっきから夢に出てくるゴマアザラシは、必ず水に関連している。

突然の雨、風呂、醤油…

まるで私に何かを暗示しているかのようだ。何を暗示しているんだ?

 

雨に濡れてもへっちゃら

さらに風呂に入りたがり、

醤油の海に飛び込んでも全く染みない…

 

「水に、つよい、、、?」

ふたたび、眠気が襲いかかってきた、瞼を擦った瞬間、眠りに落ち、気がつくと、私は、水の中にいた。

陸と水中との境を知ったあの頃の記憶や常識が、オセロのようにひっくり返った。

 

「なんて心地いいのだろう。」

 ふわふわと、暖かい、少し身じろげば、ひんやりとした膜のようなものが私の身体を包みこむ。

空から射し込む柔らかな光が、分離したマヨネーズのようにゆらゆらと降り注ぐ。

 

ふすーっと鼻から漏れた息が、シャボン玉のように、ぷくぷくと私の頬を滑りながら、

どこまでも限りなく高い水面へと吸い込まれて行った。

 

「お〜い!」

 

ゴマアザラシが何か大切な事を私に伝えようと、陸の上では見せなかった、

見惚れるほどの滑らかな泳ぎで、こっちへ向かってきた。きっとこの夢の暗示の答えかな?

すると、無音のはずの水中で、ゴマアザラシの声が微かに響いた。

 

「僕の名前はゴマフアザラシだーよ。」

「えっ⁉︎」

「ゴマじゃなくてーゴーマーフー!」

「フ?」

「フー!」

「プ?」

「フー!」

「ピ?」

「ピー!」

ピー!ピー!ピー!ピー!

ゴマピアザラシ、いや、ゴマフアザラシの声が徐々に目覚まし時計のアラーム音だということに気づき、

目を覚ますと、いつもの日常に戻っていた。

 

窓の外から雨の音が聞こえてくる。

いつもなら憂鬱な気分になるのに、今日はなぜか、そんな風には思わなかった。

 

傘をさして、玄関を飛び出る。

鼻歌は、無意識に、「雨に唄えば」だった。

これはとある印刷会社で働く、紙をこよなく愛する人が、

紙の特徴を伝えたいという想いから始まった、紙を擬人化したショートストーリーである。

 

「紙女」

第一回 マット紙のような人

第二回 光沢紙のような人

第三回 耐水紙のような人?

第四回 メッシュのような人

 第五回 合成紙糊あり・なしのような人

第六回 ターポリンのような人?

第七回 パワー合成紙のような人